2021年2月にリニューアルオープンしたコクヨ東京品川オフィス「THE CAMPUS」。コンセプトに「街に開かれた、“みんなのワーク&ライフ開放区”」を掲げる新たな拠点は、空間ごとに6つのコンセプトが設定されており、文喫はそれぞれの空間ごとにライブラリーの選書を行いました。今回、THE CAMPUSの企画に携わってきたコクヨの江崎 舞さんと、ライブラリーの選書を担当した文喫・ブックディレクターの有地和毅(日本出版販売株式会社)にライブラリーづくりにおいて大切にしていること、ライブラリーに期待することやこれからのチャレンジについて伺いました。
ライブラリーづくり。
- コクヨ 江崎舞さん(以下、江崎)
- 「THE CAMPUS」を街に開かれた実験&実践場にしたいという想いと、社員に自律的に学んでほしいという想いもあり、ライブラリー機能は絶対に入れたいと考えていました。THE CAMPUSの企画開発のサポートをしていただいていた明山淳也さん(株式会社GOODTIME 代表取締役)にライブラリーの選書についてご相談したところ、「文喫」さんを紹介頂いたのがきっかけで今回ご一緒させていただきました。私自身、もともと「文喫」は知っていましたし、コンセプト(本と出会うための本屋)にもとても共感していたので、ぜひお願いしたいなと。
- 江崎
- はじめて文喫の有地さんとお会いしてお話をさせていただいたときに、自分自身がとても本を読みたくなったんです!この感覚は大事だなと思い、お願いしようと決めました。
- 江崎
- 本当は社員とワークショップをやって、全体の何割かを社員が選んだ本にする予定でした。ですが実際にはコロナ禍ということでそのプロセスは実現できず、すべての本を文喫の皆さんに選書していただく形になりました。
- 有地
- そうなんですよね。事前の社員さんとのワークショップはできなかったので、今回は選書のテーマとして、THE CAMPUSにおけるフロアごとの空間コンセプト ―たとえば「集う」「遊ぶ」「企む」など― を多く取り入れたり、コクヨさんの事業領域なども意識したりしながら考えていきました。また、企画を担当されている江崎さんとお話をする中で収集したキーワードも選書の切り口にしました。
- 江崎
- 今のコクヨの事業領域からはみ出しつつも遠からずな本を選書していただいて、そこから社員がインスピレーションを得たり、コミュニケーションのきっかけになったりしたらいいなと考えていました。いわゆる従来のライブラリーの“自分”対“本”という関係とはちょっと違う在り方が欲しいなと思っていて。
- 有地
- THE CAMPUSの“広がっていく”というコンセプトから、ライブラリーも自分ひとりで本と対峙してインプットするようなイメージではなく、広がりのあるものにしたいと思いました。 THE CAMPUSではフロアやエリアごとにテーマがあったので、本がそのフロアごとのキャラクターを強化させる道具にもなれるといいなと。空間コンセプトを別角度で伝えていく看板のように使えるのではと思ったんですよね。
「視点の多様性の確保」と、「利用者が関与できる隙」。
- 有地
- 今回は文喫のブックディレクションチームで、とにかく見たり聞いたりしたことを言語化し、マインドマップのように発散させてキーワードを紡いでいきました。僕一人でやると思考も偏ってしまうので、視点の多様性を確保するために文喫もチーム体制で臨みます。クライアントの社員の方とワークショップを実施したいと思っている理由の一つも、まさにそれです。
手書きPOPにしたのも関係しているんですが、利用する人が関与できる隙をつくりたいと思っていて。手書きにしているからこそ自分もあたらしいテーマをつくれるかなと思えたり、そういう“拡張性の高さ”みたいなものを使う人にも抱いてもらえたらと思っています。
- 江崎
- 最初手書きのPOPをおすすめされたときは、(設計チームと連携して)オフィス内のサインを作り込んでいる最中だったので、どうしようかと思ったんですけど(笑)、有地さんが言うならじゃあやってみよう、ということになりました。実際にやってみたら、タイピングした文字にはない良い違和感もあって目に留まるので、その本がどういうテーマで選ばれているかがわかりやすくて、効果的だったと思っています。お気に入りは林さん(文喫 六本木 副店長)が提案してくださったダブルクリップでPOPをたてるアイデアですね。
- 有地
- 860冊ほどですね。たとえばCOMMONSというこの空間には、キッチンもあれば、ドラムセットもあったりするので、料理をしたくなるとか、ドラムをたたきたくなる本だとか、場所とそこでできることを紐づけて選書しました。
- 江崎
- ちなみにライブラリーの本は貸し出しできるようにしています。
- 有地
- 貸し出しの仕組みづくりでも、例えば小学校の図書カードのように「同じ本を読んでいる人がほかにもいる」ということを見える化する、など、そういうコミュニケーションのきっかけや、お互いに興味を持つフックになりうることをどんどん仕込んでいきたいんですよね。
会社の中で、自分の興味、やりたいこと、考えたいことで誰かとつながっていく機会ってそんなになくて。でも人と繋がりを感じられるのってそういう部分だし、本がアシストすることでそれが実装できたらすごく面白いなと思っています。
- 有地
- ライブラリーを創ると同時に、ライブラリーを使うコミュニティを創っていくことですね。それは単に本を選ぶだけではできなくて、クライアントと一緒になって本が使われる状況を創っていくことが大切だと思っています。最終的にはクライアント企業の持つ、働き方が多様化する中での社員同士の繋がりづらさや文化的な課題みたいなところを解決するところまでいきたいです。さまざまな仕掛けや企画を通じて社員を巻き込んだり、成功体験を積み上げたりすることで人がどんどん変わっていくんじゃないかな、と。ライブラリーもそこで働く皆さんと一緒に変化・進化していきたいですね。
- 江崎
- 例えばビールの本に反応している社員を見ると「あ、ビール好きなんだな」って気づくこともありますし(笑)そこからコミュニケーションが生まれたり、PARKSIDE(一般のお客様が利用できるカフェスペース)では、お母さんとお子様が本を読んでくれたりするシーンが見られて、まさにTHE CAMPUSのコンセプトどおり街に開いていくためのすごく大事なツールになっているなと感じます。
- 有地
- 本があるとそこに居ていい感じがしますよね。少なくともこの本を読み終えるまではいいかな、みたいな(笑)。本を手に取るという行為が、その人の興味関心を見える化してくれるという意味でも、コミュニケーションのきっかけになりますね。
- 有地
- 選書のテーマはさまざまなキーワードの重なりやネットワーク化によって生まれていきました。そのため、同じような切り口(例えば「働き方」など)の本が別のテーマによって解釈され違う棚に並んでいるということもあります。今後は、読む人が自由に繋いでいった結果がテーマになっているというような有機的なライブラリーになっていくといいな、と思っています。そうやって新しいテーマがどんどん増え、ネットワークを組み替えることでそのたびに誰かの解釈がタグとなって本に残るような仕組みができると、それが共有されて一人では得られなかった物事の捉え方や視点が増えていくのではないかと思います。
世の中、いろんな動きがある中で、それをどう解釈するかによってその次の行動や動きが変わってくると思います。チームや会社組織というのはその解釈をする共同体とも言えるのかなと思うと、ライブラリーにある本をどう解釈するか、どうタグ付けするのかというのは、その練習にもなるのかな、と。ライブラリーとそこに息づく人たちによって、日々形を変えながら、解釈共同体としての自分たちをアップデートし続けることができるといいですよね。
江崎 舞
えさき・まい
2011年コクヨ株式会社に入社し、企業のイノベーションセンターやコワーキングスペースなどのワークプレイスの設計・デザイン業務に従事。空間デザインアワードの受賞や雑誌掲載の実績多数。2016年よりTHE CAMPUS構築プロジェクトに企画として参画し、2021年8月より働き方改革タスクフォースとして活動中。
有地 和毅
あるち・かずき
2010年、株式会社あゆみBOOKS入社。あゆみBOOKS小石川店にて小説家との書簡を店頭で公開する「#公開書簡フェア」、SNSユーザー参加型の棚「#音の本を読もう」を実施。2016年、日本出版販売株式会社入社。書店店頭を活用した本によるブランディング企画担当を経て、2018年より「YOURS BOOK STORE」にてブックディレクターとして選書ディレクション、コンセプトメイキングに携わる。2020年より、企業の文化的課題解決をアシストする企業ライブラリーのプロデュースを開始。
THE CAMPUS
THE CAMPUSは、コクヨ株式会社が運営する「働く・暮らす」の実験場。元はオフィスビルだった建物の一部を開放し、どなたでもご利用いただけるパブリックエリアを新たに創設しました。オープンなラウンジや公園、ショップ、コーヒースタンドなど、親しい仲間と語り合ったり、ゆったりと過ごせる街に開かれた環境を通して、多様で豊かな混ざり合いを生み出していきます。